イスラーム映画祭6の感想

2021年2月20日から2月26日にかけて開催された イスラーム映画祭6 の感想を個人的なメモをかねて残しておく

最初の3作品はお気に入り順で、それ以降は適当な順番です

個人的にペルシア書道を習い始めたということがあって、テロップや場面に出てくるアラビア文字を見るだけで謎にテンション上がりまくるという、別の楽しみ方もできたので嬉しかった

ミナは歩いてゆく/Mina Walking

アフガニスタン映画(2015)

ペルシャ書道を始めたというひいき目もあって、今回いちばんのお気に入り。なにしろロゴが最高すぎるし、劇中でも子ども達が学校で書道作品を発表したり「あぁ、こんな感じで生活に根付いているんだなぁ、、、」というのが感じられたので、ぼくももっともっと頑張っていきたい気持ちになりました

肝心の作品の方もすばらしく、超若手の無名監督(主催者の藤本さん曰く、映像学校の卒業制作だとか)が撮ったとは思えないほどのクオリティ。暗く辛い現実のアフガニスタンを、かといって悲観的になりすぎずに明るい画面作りで、ある意味クールに描きあげています

時折見せるミナの子どもらしい表情に涙腺崩壊ですよ。弟との歌のシーンがよかったなぁ

結婚式、10日前/10 Days Before the Wedding

イエメン映画(2018)

なにかを好きだって想う気持ちは本当にいとおしくて、これはそんな愛に溢れた映画です

まずなんと、イエメン初の商業映画。 ようこそ、革命シネマへ もだったけれど、アフリカという映画産業からおいていかれた地域で作られる映画には、映画が好きで好きで好きでたまらないという気持ちが溢れ出ています

また、いろんなシーンから感じられる舞台となったイエメンやアデンへの愛情。戦争のせいで街も人生もボロボロになって、パンフレットを読むとわかるようにイエメンの厳しい現実が巧みに作品の中に折り込まれているのだけれど、それらが悲しいけれどぬくもり包まれているように感じられるのは作った人たちの国や地元への愛情だと思います

もちろん、主人公二人のお互いを想い合う気持ちもとても素敵で、厳しい状況の中でもたくましく前を向いて未来を掴み取っていこうとする女性達の強さにこそ希望があるのだよね、ステキ。アフマーンは本当にいいお嫁さん見つけたもんですよ。そりゃ落ち込むけどさ、好きなんだったら前向いて頑張るしかないもんね。お幸せに!

ザ・タワー

アニメ映画(2018)

記憶は紡がれる。家族という絆の強さをあまり感じることのできない日本からみて、どちらの方が本当に幸せなのだろうと思ってしまうのは傲慢なのかな

故郷を追われて四世代という想像を絶する境遇を、それでも前向きに「希望」を受け継ぎながら、生きていくことが抵抗だとでもいうようにワルディはまっすぐ前を向いていく

こんなにも厳しい境遇でも、ひいおじいちゃんは最後、本当に幸せだったと思う

会場では本を買いそびれてしまったのだけれど、絶対買って読みます

amzn.to

私の娘の香り/Scent of My Daughter

トルコ=米=仏合作(2019)

フランス映画によくある「語るべきところを語らず、語らなくていいところでずっと長回しする」みたいな映画なのでちょっと辛いところはあるのだけれど、三人の主人公にシリアのクルド人、トルコのアルメニア人、ヨーロッパのフランス人というそれぞれの民族の現在を強く反映することで、テロリズムとはなんなのかという問いを多角的に明らかにしてくれる、前提知識は必要だけれどそれさえあれば学びはとても多い作品

中央アジア・中近東という世界の文明の交差点であるトルコの南端で、さらにその中でも(だからこそ)歴史的に迫害を受けたアルメニア人の街を舞台にすることで過去を通じて現在から未来への絶望をまなざすような作品でした

汝は二十歳で死ぬ/You Will Die At Twenty

スーダン映画(2019)

トークショーの丸山先生のお話がめちゃくちゃ面白かったです

スーダンスーフィズム中央アジアスーフィズムともまた違った感じで、イスラームといっても多様性があるんだなぁ、というのが感じられます

画面がパキッとしててかっこいいのでその辺りも見所

シェヘラザードの日記/Scheherazade's Diary

レバノンドキュメンタリー映画(2013)

ジェンダーギャップが日本以下の国、レバノンの女性刑務所でドラマセラピーを通じて女性達にフォーカスした作品

まず最初に、刑が確定していないのに収容ってどういうことなの?!?!ってなると思いますがそれは序の口で丁寧に丁寧に個人を掘り下げていきます

この作品に限らずですが、人はどこに行っても同じように同質で同じように多様なんですよね

この作品に出てくるたくさんのシェヘラザードのように、それぞれがそれぞれにイスラームであり女性であり母であり恋人であり、罪を背負いながらレバノン人として生きていくわけです。イスラーム女性なんてものはどこにも存在しないんだ。そんな当たり前のことを教えてくれる映画です

シーダ/Rachida

アルジェリア映画(2002)

これぞ、トラウマ。こんなん遭遇したらそりゃもう安穏と生きていけるわけない

トークショーアルジェリアのヨーロッパに翻弄されまくった歴史を知って悲しくなる。地中海沿いの北アフリカはとても行ってみたいエリアなのだけれど本当に厳しいよねぇ

最初から最後までずっと女性にスポットを当てた作品なので、イスラームにおける女性像の多様性っていう視点で観るのも面白いかも

痕跡 NSUナチ・アンダーグラウンドの犠牲者/Spuren - Die Opfer des NSU

ドイツのドキュメンタリー(2019)

観てください、としか言いようがない

なぜ彼らが殺されなきゃいけなかったのか、意味もなく大切な人の命を奪われてどう生きていけばいいのか

こういう境遇にされてしまった側の気持ちは間違いなく世界共通で、違うのはそうしてしまう側の問題でしかないんだよね

孤島の葬列

タイ映画(2015)

これ、トークショーを聞く前と後でまるっと見える世界が違う作品

タイの深南部(プーケット のさらに南、マレーシアとの国境地域)なんてほとんどの日本人は知らないはずなので、もし観るなら先にパンフレット読んでしまった方がいいと思います

コロナでこれまで自由に行き来できたマレーシアとの国境が封鎖された、なんて話を聞くとこういうマージナルな世界がどんどん消えてしまっていって悲しいなぁ、と感じてしまう

青い空、碧の海、真っ赤な大地/Neelakasham Pachakadal Chuvanna Bhoomi

南インドマラヤーラム語映画(2013)

これは観ていないけれど公式の作品紹介へのリンクとしてメモ

長い旅

フランス=モロッコの合作映画(2004)

ちょうど道中の真ん中であるバルカン半島を旅行していたこともあって、全体的な距離感がざっくり掴めていたのだけれど、むちゃくちゃな距離ですからね

多分、各シーンとシーンの間に一週間くらい車走らせないと着かないんじゃないかな

イスラームの人にとってのハッジの大切さは昨年の「アブ・アダムの息子」でじっくりと観せてもらっていたので、いろんな意味で切ないなぁ。ラストシーンで息子の変わった姿がみられてお父ちゃんも本望だと思います

マリアの息子

イラン映画(1998)

永遠に可愛すぎる。。。子どもにとっては宗教なんて関係ないし、こういう純粋な信仰心にこそ大切なものがあるんだろうな

イラン映画は本当にどれも画面が美しすぎるので永遠に流し続けたくなりますね

アル・リサーラ/ザ・メッセージ アラブ・バージョン

デジタル・リマスター(1976-2018)

昨年観逃したアンコール上映作品。3時間半ほどの上映時間で見事にアラビア映画のベン・ハーですね

amzn.to

これを読んでないと、まぁまず意味が分からなかったと思うんですが、この本のおかげでふむふむという気持ちで見れました。というか、この本を読み直すために観たと言った方が正しいかもしれない

万人におすすめはできないですが、イスラームとはなんなのか、、、みたいなのをある程度知識として持っているとめちゃくちゃ楽しめる映画です

最後に

毎年観に来ていて思うのは、その年ごとに映画の中の明るさや雰囲気が違うということ。それだけ、状況が安定せず一進一退するような情勢なのだろうということを感じてしまいます。

このコロナの時代で移動もままならない中、気持ちだけでも世界旅行をさせてくれるようなこういう映画祭を開催してくれる主催者の藤本さんに感謝を込めて