イスラーム映画祭6の感想
2021年2月20日から2月26日にかけて開催された イスラーム映画祭6 の感想を個人的なメモをかねて残しておく
最初の3作品はお気に入り順で、それ以降は適当な順番です
個人的にペルシア書道を習い始めたということがあって、テロップや場面に出てくるアラビア文字を見るだけで謎にテンション上がりまくるという、別の楽しみ方もできたので嬉しかった
ミナは歩いてゆく/Mina Walking
アフガニスタン映画(2015)
【イスラーム映画祭6上映作品⑧】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月21日
8本目はアフガニスタン映画『ミナは歩いてゆく/Mina Walking』(2015)です。★日本初公開
現在はカナダ在住のアフガニスタン人監督が、学校に通いながら路上で物売りをしている12歳の少女を主人公に、彼女の視線を通じてアフガニスタンの厳しい現状を描いた作品です。 pic.twitter.com/FoeZYPaEei
ペルシャ書道を始めたというひいき目もあって、今回いちばんのお気に入り。なにしろロゴが最高すぎるし、劇中でも子ども達が学校で書道作品を発表したり「あぁ、こんな感じで生活に根付いているんだなぁ、、、」というのが感じられたので、ぼくももっともっと頑張っていきたい気持ちになりました
肝心の作品の方もすばらしく、超若手の無名監督(主催者の藤本さん曰く、映像学校の卒業制作だとか)が撮ったとは思えないほどのクオリティ。暗く辛い現実のアフガニスタンを、かといって悲観的になりすぎずに明るい画面作りで、ある意味クールに描きあげています
時折見せるミナの子どもらしい表情に涙腺崩壊ですよ。弟との歌のシーンがよかったなぁ
結婚式、10日前/10 Days Before the Wedding
イエメン映画(2018)
【イスラーム映画祭6上映作品①】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月20日
1本目はイエメン映画『結婚式、10日前/10 Days Before the Wedding』(2018)です。★日本初公開
『わたしはヌジューム』はイエメン人監督が製作しつつもイエメンでは未公開でしたが、本作は純国産にして“史上初めてイエメン国内で商業公開された”記念すべき作品です。 pic.twitter.com/lp5LPKcy3t
なにかを好きだって想う気持ちは本当にいとおしくて、これはそんな愛に溢れた映画です
まずなんと、イエメン初の商業映画。 ようこそ、革命シネマへ もだったけれど、アフリカという映画産業からおいていかれた地域で作られる映画には、映画が好きで好きで好きでたまらないという気持ちが溢れ出ています
また、いろんなシーンから感じられる舞台となったイエメンやアデンへの愛情。戦争のせいで街も人生もボロボロになって、パンフレットを読むとわかるようにイエメンの厳しい現実が巧みに作品の中に折り込まれているのだけれど、それらが悲しいけれどぬくもり包まれているように感じられるのは作った人たちの国や地元への愛情だと思います
もちろん、主人公二人のお互いを想い合う気持ちもとても素敵で、厳しい状況の中でもたくましく前を向いて未来を掴み取っていこうとする女性達の強さにこそ希望があるのだよね、ステキ。アフマーンは本当にいいお嫁さん見つけたもんですよ。そりゃ落ち込むけどさ、好きなんだったら前向いて頑張るしかないもんね。お幸せに!
ザ・タワー
アニメ映画(2018)
【イスラーム映画祭6上映作品④】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月20日
4本目は、2019年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で最優秀作品賞を受賞したアニメ映画『ザ・タワー』(2018)です。
北欧ノルウェーの作家が、レバノンの首都ベイルートのパレスチナ難民キャンプに暮らすある一家を主人公に、パレスチナ難民70年の歴史を描いた傑作です。 pic.twitter.com/ppg8rDyW0R
記憶は紡がれる。家族という絆の強さをあまり感じることのできない日本からみて、どちらの方が本当に幸せなのだろうと思ってしまうのは傲慢なのかな
故郷を追われて四世代という想像を絶する境遇を、それでも前向きに「希望」を受け継ぎながら、生きていくことが抵抗だとでもいうようにワルディはまっすぐ前を向いていく
こんなにも厳しい境遇でも、ひいおじいちゃんは最後、本当に幸せだったと思う
会場では本を買いそびれてしまったのだけれど、絶対買って読みます
私の娘の香り/Scent of My Daughter
トルコ=米=仏合作(2019)
【イスラーム映画祭6上映作品②】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月20日
2本目はトルコ=米=仏合作『私の娘の香り/Scent of My Daughter』(2019)です。★日本初公開
南仏ニースのテロで家族を亡くし、父の遺言に従って遺体をトルコで埋葬したアルメニア系仏人女性と、ISISの拘束から救出されたヤズィード教徒のクルド人少女が出会います。 pic.twitter.com/jWrRlO8uz6
フランス映画によくある「語るべきところを語らず、語らなくていいところでずっと長回しする」みたいな映画なのでちょっと辛いところはあるのだけれど、三人の主人公にシリアのクルド人、トルコのアルメニア人、ヨーロッパのフランス人というそれぞれの民族の現在を強く反映することで、テロリズムとはなんなのかという問いを多角的に明らかにしてくれる、前提知識は必要だけれどそれさえあれば学びはとても多い作品
中央アジア・中近東という世界の文明の交差点であるトルコの南端で、さらにその中でも(だからこそ)歴史的に迫害を受けたアルメニア人の街を舞台にすることで過去を通じて現在から未来への絶望をまなざすような作品でした
汝は二十歳で死ぬ/You Will Die At Twenty
スーダン映画(2019)
【イスラーム映画祭6上映作品③】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月20日
3本目は映画祭初のスーダン映画『汝は二十歳で死ぬ/You Will Die At Twenty』(2019)です。★日本初公開
『ようこそ、革命シネマ』が描いた通り、2019年まで30年間続いたイスラーム主義政権下で映画産業が衰退したスーダンで、史上7番目に作られたという長篇作品です。 pic.twitter.com/WAxd4dLJ1S
トークショーの丸山先生のお話がめちゃくちゃ面白かったです
スーダンのスーフィズムは中央アジアのスーフィズムともまた違った感じで、イスラームといっても多様性があるんだなぁ、というのが感じられます
画面がパキッとしててかっこいいのでその辺りも見所
シェヘラザードの日記/Scheherazade's Diary
レバノンのドキュメンタリー映画(2013)
【イスラーム映画祭6上映作品⑤】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月20日
5本目はレバノンのドキュメンタリー映画『シェヘラザードの日記/Scheherazade's Diary』(2013)です。★日本初公開
レバノンのバアブダ女性刑務所で、演劇を通じたドラマセラピーに参加する女性囚たちを描いた作品です。演劇は所内で2ヵ月にわたり12回上演されました。 pic.twitter.com/Io4fuSAMpy
ジェンダーギャップが日本以下の国、レバノンの女性刑務所でドラマセラピーを通じて女性達にフォーカスした作品
まず最初に、刑が確定していないのに収容ってどういうことなの?!?!ってなると思いますがそれは序の口で丁寧に丁寧に個人を掘り下げていきます
この作品に限らずですが、人はどこに行っても同じように同質で同じように多様なんですよね
この作品に出てくるたくさんのシェヘラザードのように、それぞれがそれぞれにイスラームであり女性であり母であり恋人であり、罪を背負いながらレバノン人として生きていくわけです。イスラーム女性なんてものはどこにも存在しないんだ。そんな当たり前のことを教えてくれる映画です
ラシーダ/Rachida
アルジェリア映画(2002)
【イスラーム映画祭6上映作品⑥】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月21日
6本目は少し古いアルジェリア映画『ラシーダ/Rachida』(2002)です。
政府・軍とイスラーム主義勢力の対立から始まった1990年代の内戦を題材に、アルジェリア映画で初めて女性監督が製作した作品です。そう、『パピチャ 未来へのランウェイ』の、これがオリジンです。 pic.twitter.com/Z92BG0pRzn
これぞ、トラウマ。こんなん遭遇したらそりゃもう安穏と生きていけるわけない
トークショーでアルジェリアのヨーロッパに翻弄されまくった歴史を知って悲しくなる。地中海沿いの北アフリカはとても行ってみたいエリアなのだけれど本当に厳しいよねぇ
最初から最後までずっと女性にスポットを当てた作品なので、イスラームにおける女性像の多様性っていう視点で観るのも面白いかも
痕跡 NSUナチ・アンダーグラウンドの犠牲者/Spuren - Die Opfer des NSU
ドイツのドキュメンタリー(2019)
【イスラーム映画祭6上映作品⑦】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月21日
7本目はドイツのドキュメンタリー『痕跡 NSUナチ・アンダーグラウンドの犠牲者/Spuren - Die Opfer des NSU』(2019)です。★日本初公開
2000年代にドイツのネオナチが8名のトルコ系移民を殺害したNSU事件。事件から10年を経て、遺族の声に初めて耳を傾けた作品です。 pic.twitter.com/6zc9e5DSCW
観てください、としか言いようがない
なぜ彼らが殺されなきゃいけなかったのか、意味もなく大切な人の命を奪われてどう生きていけばいいのか
こういう境遇にされてしまった側の気持ちは間違いなく世界共通で、違うのはそうしてしまう側の問題でしかないんだよね
孤島の葬列
タイ映画(2015)
【イスラーム映画祭6上映作品⑩】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月21日
10本目は、2015年の東京国際映画祭でアジアの未来部門・作品賞を受賞したタイ映画『孤島の葬列』(2015)です。
バンコクに暮らすムスリムの姉弟が、弟の友人と3人で伯母が住むというタイ深南部のパッターニー県を目指して旅をする不思議な雰囲気のロードムービーです。 pic.twitter.com/pmKAEWnaLb
これ、トークショーを聞く前と後でまるっと見える世界が違う作品
タイの深南部(プーケット のさらに南、マレーシアとの国境地域)なんてほとんどの日本人は知らないはずなので、もし観るなら先にパンフレット読んでしまった方がいいと思います
コロナでこれまで自由に行き来できたマレーシアとの国境が封鎖された、なんて話を聞くとこういうマージナルな世界がどんどん消えてしまっていって悲しいなぁ、と感じてしまう
青い空、碧の海、真っ赤な大地/Neelakasham Pachakadal Chuvanna Bhoomi
【イスラーム映画祭6上映作品⑨】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月21日
9本目は南インド・マラヤーラム語映画『青い空、碧の海、真っ赤な大地/Neelakasham Pachakadal Chuvanna Bhoomi』(2013)です。★日本初公開
ケーララのムスリム青年が、愛する女性の出身地ナガランドを目指して友人とともに4800㌔の旅をする青春ロードムービーです。 pic.twitter.com/7502MGB2dG
これは観ていないけれど公式の作品紹介へのリンクとしてメモ
長い旅
フランス=モロッコの合作映画(2004)
【イスラーム映画祭6アンコール①】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月22日
初年のイスラーム映画祭で好評を博したフランス=モロッコの合作映画『長い旅』(2004)を上映いたします。
フランス生まれのモロッコ移民二世の若者が、父親に無理矢理駆り出されイスラーム最大の聖地マッカを目指して7ヵ国を車で旅する長大なロードムービーです。 pic.twitter.com/u5cRzRf2nc
ちょうど道中の真ん中であるバルカン半島を旅行していたこともあって、全体的な距離感がざっくり掴めていたのだけれど、むちゃくちゃな距離ですからね
多分、各シーンとシーンの間に一週間くらい車走らせないと着かないんじゃないかな
イスラームの人にとってのハッジの大切さは昨年の「アブ・アダムの息子」でじっくりと観せてもらっていたので、いろんな意味で切ないなぁ。ラストシーンで息子の変わった姿がみられてお父ちゃんも本望だと思います
マリアの息子
イラン映画(1998)
【イスラーム映画祭6アンコール②】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年12月22日
2本目はイスラーム映画祭2で上映し、少年の健気な姿に観た人すべて(自分の知る限り)が感銘を受けた珠玉のイラン映画『マリアの息子』(1998)です。
教会の聖マリア像に見知らぬ母の顔を重ねるムスリムの男の子が、怪我をした神父のために奔走するというお話です。 pic.twitter.com/nwvzDLcHNJ
永遠に可愛すぎる。。。子どもにとっては宗教なんて関係ないし、こういう純粋な信仰心にこそ大切なものがあるんだろうな
イラン映画は本当にどれも画面が美しすぎるので永遠に流し続けたくなりますね
アル・リサーラ/ザ・メッセージ アラブ・バージョン
デジタル・リマスター(1976-2018)
【イスラーム映画祭5上映作品①特別興行】
— イスラーム映画祭 (@islamicff) 2020年1月14日
『アル・リサーラ/ザ・メッセージ アラブ・バージョン〈デジタル・リマスター〉/Al-Risâlah』(1976-2018)
43年前に公開された歴史大作『ザ・メッセージ 砂漠の旋風』をキャストをアラブ人俳優に入れ替え同時撮影した“幻のアラブ版”を日本初上映いたします。 pic.twitter.com/oht13ijh3O
昨年観逃したアンコール上映作品。3時間半ほどの上映時間で見事にアラビア映画のベン・ハーですね
これを読んでないと、まぁまず意味が分からなかったと思うんですが、この本のおかげでふむふむという気持ちで見れました。というか、この本を読み直すために観たと言った方が正しいかもしれない
万人におすすめはできないですが、イスラームとはなんなのか、、、みたいなのをある程度知識として持っているとめちゃくちゃ楽しめる映画です
最後に
毎年観に来ていて思うのは、その年ごとに映画の中の明るさや雰囲気が違うということ。それだけ、状況が安定せず一進一退するような情勢なのだろうということを感じてしまいます。
このコロナの時代で移動もままならない中、気持ちだけでも世界旅行をさせてくれるようなこういう映画祭を開催してくれる主催者の藤本さんに感謝を込めて