熊とワルツをの読書会を行いました

現在お手伝いしている iCARE さんの開発部は現在大きく拡大中。それにともない各エンジニアにプロジェクト・マネージャーとしての役割が求められるようになってきたこともあり、学びにくく重要な概念であるリスク管理に入門するのに最適な一冊ということで読書会を開催しました

開催概要

計画では全5回、実際には第二部のボリュームが多かったので合計6回実施

前半はぼくの方でまとめた抄訳を読み上げて、後半は JamBoard にみんなの意見を出し合ってディスカッションという流れ。本自体はトータルで2時間もあれば読み切れる内容なので、抄訳を読み上げている間に範囲を読み切ることは可能、というボリューム感でした

リスクを正しく理解する

リスクはチャンス、といった言葉があるようにリスクを取ることの重要性はみんななんとなく理解しているかもしれません。ですが、いざ業務でリスクを取ろうとしても勇気がでないのではないでしょうか?

この本では、特性や属性ひとつひとつに光を当てながら、丁寧にモデル化し、リスクの概念が「よくわからない感覚的なもの」から「具体的に捉えて対処ができるもの」へと転回されていきます。熊とワルツをというタイトルが示す通り「襲いかかる危険なだけの生き物」から「ワルツを踊ることができるパートナー」へと昇華してくれるのです

この本を正しく読み終えたには「なぜリスクを取らなければならないか」をきちんと論理的に説明できるようになっているでしょう。そして、「正しいリスクの取り方」も理解しているはずです

モデル化と概念のパラダイムシフト

リスク以外にも、不確定性、ナノパーセント日、信じる権利、納期、リスク管理、価値コスト比率などなど、リスクを取りますさまざまな概念に対して、ステップバイステップでどのように捉えるのが正しいのかをステップバイステップで数量化を交えながら解説されています

リスクに対して不確定性図を使って数量化し、解像度をドラスティックに変えながらさまざまな視点があり、その活用の仕方も無限にあるということを実例を交えながら解説する流れは、刺激的で知的好奇心を刺激されるはずです

これはモデル化や概念の学習プロセスの基礎の基礎でもあります

進化が活発なソフトウェア開発の現場では、現在もさまざまな手法が生み出され、古典的な概念もどんどん新しく再定義されています。モデル化や概念の学習といった、根本から対象を客観的に捉え直す考え方を身につけていることで、バズワードに惑わされず、新しい概念の波を乗りこなすことができるようになるでしょう

インクリメンタル手法とモダンな開発手法

もっとも効果が高いリスク軽減の手法としてインクリメンタルな開発手法が解説されています。この書籍ではすべてがプロジェクト単位で語られていますが、現在のより不確実性が高まった状態では、より「学習しながら終わりのないプロジェクトに対処する」必要が高まっています

アジャイルやリーンなどの学びながら作る対象をとらえ直し、継続的に開発を進めていく手法からはより実践的な方法論が学べるし、また日々新しいプラクティスが登場しています。一度読んだことがあったとしても、熊とワルツをを読み終えてから、再度読み直すことで新しい視点でより深く理解することができるはずです

同様に継続的に開発しつつ、リスク回避する方法の一つとしてテスト駆動開発があります。

組織の枠組みから変えていく

本書内でも繰り返し出てきましたが、リスク管理は組織的な取り組みにしないと難しいよね、という話があります。具体的にエンジニア組織、事業組織の中でのエンジニア部門をとらえ直し、どのようにしていくべきなのか、といった分野にはさまざまな新しいプラクティスが登場しています

総合格闘技としてのソフトウェア開発

エンジニアの主な活躍の場が IT スタートアップとなっている現在、ソフトウェア開発は事業活動の一部ではなく、経営とニアリーイコールの関係となり、総合格闘技の様相を呈しています

ソフトウェア開発自体の価値を総合的に棚卸しした書籍としてこの2冊もおすすめです

最後に

この書籍に登場する事例や対処法は SI 的でウォーターフォールなものが多く、現在の開発プロセスに直接適用するにはフィットしないようにも思えます。ですが、書籍でも繰り返し述べられるように、ソフトウェア開発の対象がコスト軽減から価値創造にシフトしていく時代であり、同じ時代に発展してきたアジャイルやXPなどと同じ価値観を共有しています

それは、個々の開発者・開発チームの価値創造の可能性をを最大化するにはどうすればいいか、というものです

リスクというものをモデル化し、価値と結びつけ、どのようにその最大化を行うか。こういったアプローチを出発点に、現在のさまざまな手法が発展してきたということを理解することで、モダンな開発手法をただの方法論としてではなく、課題に対するアプローチとして捉え直すことができるようになるでしょう