UX DAYS TOKYO 2016で感じた5つのこと

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3月18日〜20日に開催された UX DAYS TOKYO 2016 。カバー写真でわかるように ジェシー・ジェイムス・ギャレット を見に行くというミーハー根性だけで行ったのですが、予想を上回る内容で、今の自分の課題点や想いと重なる部分が多く非常に実りあるカンファレンスでした。ざっくりとまとめると「IAとビジュアルスキルの重要性への原点回帰」なのですが、頭の中の整理をかねて、私の感じたこれからのUX業界のこれからについて5つの視点でまとめてみました。

UXという言葉がIAに追いついてきた?!

IA関連の話の多かった感がある今回のUX DAYS TOKYO。

IAを情報の整理だけと考えてしまうのは非常にもったいないです。Abby Covert の話にもありましたが、情報を整理するにはどのような視点で整理するかが重要で、それにはユーザーの理解は必須となります。誰かに向けてプロダクトを作る以上、その誰かが誰なのかを考えなければいけない。UXとIAはほぼ同じ事を、違う(あるいは多くの部分で重なる)アプローチで実践しているのです。

UXとIAを比較した時、歴史的にもスキル体系を見ても(少なくともウェブ制作の実務においては)IAの方に一日の長があります。極端な言い方をしてしまうと「誰にでもできるUXデザイン」と「専門職としてのIA」という棲み分けだった両者ですが*1、UXは言葉や業界の成熟とともに、ようやくIAと同じレベルにたどり着いたのかもしれません。

逆に言うとUXデザイナーを志す人間であればIAのスキルは今後必須です。IAに関しては書籍など情報がたくさんありますし、最近ではUX文脈でのIAを解説した書籍の発売も続いています。デザインという枠からもう一歩踏み出すのが重要なタイミングに来ているのでしょう。

コミュニケーションデザインの重要性

デザインとはいかに「伝えるか」というスキルです。 Kevin のストーリーボーディングにしても Abby の組織内の言葉の統一にしても、いかに正しく効果的に感情を含めて価値・ストーリーを伝えるか、という事にフォーカスした内容でした。これからのデザイナーにとってコミュニケーションスキル、といっても対話スキルではなくコミュニケーションの仕組みを作るスキルが重要になってくるのでしょう。

コミュニケーションには2つあります。一つは組織内のコミュニケーション、もう一つはユーザーとプロダクト・サービスのコミュニケーションです。ユーザーに向けての実践はずっと進められておりリソースも大量にあるのですが、組織内のコミュニケーションという文脈でいうとあまりありません。海外のUX系の書籍紹介で必ず紹介される書籍に「Webサイト設計のためのデザイン&プランニング」という本がありますが、国内ではあまり話題になったのを見たことがありません。ウェブ制作プロジェクトのドキュメントデザインにフォーカスした書籍で、デザイナーがプロジェクトのコミュニケーションに対して積極的に関わる事で、どれだけ価値を生む事ができるかよく分かる良書となっています。

コミュニケーションデザインはプロセスです。UX界隈ではあまり良く思われない風潮のあるA/Bテストですが、何回も実施する事でチームの中での共通言語を作る、という意味で非常に役立った経験があります。こういった時間軸と価値観を結びつけたデザイン能力というのはデザイナーの得意分野のはずです。いわゆるUXデザイナーの役割としてのファシリテーション、WS設計・実施だけではなく、もう一歩踏み込んだ形でプロジェクトのコミュニケーションにコミットしていく事がこれからのデザイナーの役割なのかもしれません。

レイヤーで考えるUX

もう一つ感じたのは、デザインにおいてレイヤー構造で考えるという事は必須だということです。JJGの5層構造しかり、ラダーアップ・ラダーダウンによる価値分析しかり、一つの事象を複層のレイヤー構造で理解してアウトプットとしての"形"に反映していく事がデザイナーの本分だと思うのですが、同時に非常に難しいスキルでもあります。

もちろん、優秀なデザイン思考ができる人は自然にやっているのでしょう。でもそれだけだと2つ問題があると思っていて、一つは暗黙知となってスキルの継承ができないこと。そしてもう一つが重要で、表層レイヤー以外のレイヤーの情報がコミュニケーションから取り残されるという問題です。よく異職種間で言語が通じないというケースが発生すると思うのですが、これは顕在化されたデザインやプロダクトの裏に文化やコンテクストという別レイヤーがあり、それが見える化されていない事による「分かってほしい価値を理解してもらえない」という現象が発生するのではないのかと思うのです。

お互いの歩み寄りによって、という解決策になりがちですが、伝えることのプロフェッショナルであるデザイナーとしてはここをおざなりにするのは非常に良くないです。昨年からのプロトタイピングツールの流行で、平面×時間軸での思考の見える化はずいぶん進んだと思うのですが、まだレイヤードな情報をアウトプットし視覚化するためのツールはないんですよね。こういった分野はIAという職種がずっと取り組んでいた分野でもあると思うので、知見を取り込み、さらに進んでいくべき方向なのかな、と思います。

言葉の使い方とUX

「正しいコピーライティング」はGVがプロトタイプを作る際に重要視しているポイントです。かならず初期段階から正しい言葉を使うことが大切とのこと。デザインスプリントのワークショップにおいても、実在する(しそうな)コンテンツを使って、略さないで文章を使うように念押しされた事からもこれが重要だという事がわかるでしょう。

また、Abby のセッションでは組織内で決まった言葉を使う事の重要性が繰り返し述べられていました。そもそも、UX界隈においても言葉の定義は非常にあいまいで、UXという言葉そのものでさえ人によってまったく違うものを指している事がよくあります。それ自体は必ずしも悪ではないですが、チームとなった時にそのままの状態では、なにかを成し遂げようとしても必ず失敗するでしょう。

「とりあえずダミーテキストで……」となりがちな文言やテキストコンテンツですが、経験価値の提供という意味とコミュニケーションという両方の面で非常に重要だという事が語られたカンファレンスだったと思います。

余談ですが、この分野においては日本の活字文化や優秀な"編集者"が揃っているというのは、すごい強みになると思っています。紙からウェブへ。スキルセットと報酬のアンマッチで不幸な話しか聞かない業界ではありますが、言葉でコンテンツの価値を最大限伝えるプロフェッショナルという彼らのスキルは、これから確実に見直されていくのではないでしょうか。

デザイナーであること

ここまではIA的なポイントが続きましたが、それ以上に今回の2日間を通して一番強く感じたのはビジュアルデザインスキル重要性でした。 たった一枚の落書きがプロジェクトの方向性を決めることもあるし、ホワイトボードに書き出すだけでずっと同じところをぐるぐるしていた会議が一気に前に進むこともある。視覚化がコミュニケーションを促進する効果は非常に強力です。

GVのDesign Sprintは、コンセプトの持つ価値を最適にビジュアライズし、クオリティの高いインターフェイスを短期間で作り上げることのできる、デザイナーの高いスキルがあってこそのアプローチです。Kevin のストーリーボーディングについても、適切にビジュアライズできなければ、ただ誤解を与えてしまうだけです(彼自身は「上手い必要はない」と言っていましたが)。

最近、"UI/UX"という言葉の価値を見直していて、やはりビジュアルデザインはエクスペリエンスの重要な部分を占める物だと素直に思えるようになってきました。というよりも、高いビジュアルデザインスキルを持つことができなければ、どこかで限界に突き当たってしまうのでしょう。ここは本当に個人として取り組んでいかないといけない部分ですね。

最後に

ゆっくりと反芻しながらまとめていたら予想以上に長くかかってしまいましたが、本当にすばらしいカンファレンスでした。 IAの話題の多さとエージェンシーという彼らの立場から若干オールドファッションな印象は感じましたが、インハウスであるからこそ彼らの専門的なプロフェッショナリズムに学ぶことはたくさんあると思います。今年は業界全体ももう一つレイヤーが上がる気がしますし、自身についてもこれまで培ってきたスキルを棚卸しして次に進むための整理ができました。

もう一歩前へ。


*1:アカデミックな話ではなく、あくまでもIT業界における実際として。